ごめん、ごめんなさいって。
だってさ、そんなに怒ると思わなかったんだもん。
「雅治!ねぇ、雅治ってば!!」
振り向いてよ。声、かけてよ。
「雅治!!」
無視……しないでよ……。
< 恋愛インパスター >
事の始まりは、年末に持ちかけられた話から始まったんだ。
「センパイ!!」
終業式のあと、雅治のクラスに行こうと思ったら、廊下の角から雅治の後輩が顔を出していた。
「えーと、…切原 赤也君…だっけ?」
「そうっす。ってか!こっち!こっち隠れてください!!」
赤也君とは雅治を通じて何度か挨拶しただけなんだけど、そんな私に何の用だと思っていたら腕を引っ張られた。
角に隠れると、雅治のクラスの廊下からは見えない。
「ちょーっと時間いいっすか?」
「今から雅治迎えに行くんだけど」
「お願いします!!今日だけ、テニス部に時間ください!!」
「はぁ…?」
必死に頼むもんだから思わずOKしちゃって、雅治に『先に帰ってて』ってメールを打ったんだ。
そしたら連れて来られたのはテニス部の部室で、中ではブン太と柳生が待ち構えていた。
「お、来たか」
「すみませんさん、ご足労をおかけします」
「ああ…うん」
「本当に私は何度も止めたんですよ?ですがその…私も少々、気になってしまいまして…」
「…何の話?」
「おい赤也、お前説明してねぇのかよ」
「そんなの、仁王センパイに見つからないように連れて来るだけでいっぱいいっぱいっスよ!!」
目の前で勝手に盛り上がる三人をぼーっと眺めてたら、急にブン太が楽しそうに事を語りだした。
「、お前仁王が感情むき出しにしたとこ見たことあるか?」
「は?」
「だぁからぁ!!めちゃ怒ったり、悲しそうにしたり、そんな顔見たことあるか?ねぇだろぃ」
「…そりゃまぁ、ね」
「そう!!だから俺ら、あいつのそんな顔拝んでやろうと思ってさ!!そしたらどーしてもの協力が必要になったってワケ!!」
ブン太のテンションに便乗して、赤也君が勢い良く何か大きな紙を机に広げる。
「じゃーん!!仁王センパイに嫉妬の嵐を巻き起こせ!作戦〜!!」
明らかにネーミングセンスのないタイトルに脱力。
尚も二人はテンション高々に作戦の説明を始めた。
「勝負は正月!!どうせお前らだって初詣とかするだろぃ?」
「行くと思うよ」
「待ち合わせしますよね?」
「そりゃ、するんじゃない?」
「まずポイント1はそれっス!!待ち合わせ時間に遅れてやってくるセンパイ、一緒に…」
「偶然を装って、途中で会った俺たちも一緒に初詣に行くっつー流れにする。
まぁこれは仁王も嫌々許すだろぃ。だからここからがポイント2!!」
「俺たちが必要以上にセンパイに絡む!!」
「なるべく仁王と一緒にさせないように屋台に連れまわす!!」
「そしたらいくら仁王センパイだって、大事な彼女連れまわされちゃ気分が悪いっスよね?」
「そんでダメ押しのポイント3!!柳生に最終爆弾を落としてもらう!!」
「爆弾て?」
「詳しくは決めてないっスけど、ダブルスのペアで信頼も固い柳生センパイまでセンパイにちょっかいを出すってのは、なかなか痛いっしょ?」
「そこまでやったら、仁王だってぶっすーってブサイクな面で拗ねるっつー作戦!!」
二人は雅治のその顔を想像しているのか、お腹を抱えて笑い出した。
「…なんだかスイマセン…」
「え、何が?」
「何がって…」
「すっげー面白そうじゃない」
私が恍惚とした笑みを浮かべると、柳生は一瞬呆けた後一緒になって笑い出した。
「全くあなたという人は……さすが、仁王君とお付き合いしている女性、ですね」
「お褒めに頂き恐縮デス。…ねぇ、もっと詳細決めようよ」
その日は四人で打ち合わせをして……
そして、お正月を迎えたんだ。
時刻は正午12時。ジャスト、待ち合わせの時間。
「よーっし、じゃぁ打ち合わせ通りするかんな?」
「準備おっけーっスか?」
「大丈夫です。さんは?」
「もっちろん」
神社からお囃子の音が微かに聞こえる路地裏で、私たちは最後の確認をしていた。
「それにしてもセンパイ…着物すっげー似合っ…」
「赤也君、駄目ですよ」
「え、何でっスか」
「さすがにその言葉は、仁王君に最初に言わせてあげなさい。今日は元旦そうそう彼に酷い行いをするんですから」
「そうだぜぃ。ま、そっからが地獄の始まりだけどな〜」
一体雅治はどんな顔してくれるのかな?
この三人みたいにただ見たいっていう風には思うけど…私にとっては、雅治がどれくらい私の事を思ってくれてるか…それが気になるんだ。
「じゃぁ…行こっか」
私を先頭にして、一同は神社へと足を進めた。
すぐに人だかりに入って身動きがしづらくなる。だけど、待ち合わせ場所の階段下までそうすぐそこだ。
「仁王センパイどの辺っすか!?」
「見えねぇぞ」
「なるべく解りやすいところにいると思いますが…」
「うーん……あ、いた!」
ひときわ目立つ銀髪が目に映って、私は慣れない着物で小走りにそこへ向った。
「雅治!!」
雅治はすぐに私に気付くと、笑顔で迎えてくれた。
「、ちょい遅かったのう…何かあったんか?珍しい」
「う、うん……あの…実は…」
「いよっす!仁王♪」
「あけましたっス!!」
「あけましておめでとうございます」
「…何でお前らがおるんじゃ」
「ごめん、さっきそこで捕まっちゃって…」
「せっかくだし着いてこーって思ってよ」
「別にいいっスよね?」
「スイマセン、止めたんですが…」
「…………」
雅治は呆れ顔でため息をつくと、すっと私の手を引き歩き出した。
「勝手にしんしゃい。…、行くぜよ」
「あ、うん」
後ろで赤也君とブン太が小さくガッツポーズをしたのが見えて、私も小さく息を漏らす。
…この先は邪魔も入るし…今のうちに…。
「雅治」
「ん?」
「あけましておめでとう」
「…おめでとさん」
今年、初めて見る雅治の笑顔。心臓の辺りがきゅーってなって、私は微笑んだまま少し目を逸らした。
「……。センパイ!!俺焼きそば食べたいっス!!」
「俺もー!!、行こうぜぃ!!」
「うぇっ!?ちょ、ちょっと!?」
空いている方の腕を二人に掴まれ、するりと、雅治と繋いでいた手が解かれた。
「……はしゃいどるのう」
「全く…まずはお参りに行くのがマナーでしょう…」
作戦の落とし役が見事な演技で雅治に付き添う。
今は…ね。
「…なんか、こんなことしてていいのかなぁ」
「今更何言ってんだよ」
「そうっスよ。仁王センパイがもし怒っても、怒られるのは俺らっスから。センパイは心配しなくて大丈夫っス」
「そうそう」
「うーん…」
「ホラ、次あっち!!」
屋台を転々としながら境内を進み、ようやく神社の前にたどり着く。
ふと前を見ると、雅治と柳生が待ってくれていた。
「お待たせしました〜」
「楽しかったぜぃ♪」
「では、ちゃんとお参りしましょう」
「そうだね」
参拝の列に並んでも、私は赤也君とブン太にガードされて雅治の隣にはいなかった。
だから雅治がどんな顔をしているのかとか…解らないままで。
(…なぁんか楽しくなくなってきちゃった)
本当はさ、普通に、雅治と二人で来たかった、とか。色々思うことはあるんだよ。
作戦が成功しなかったら、私はただ邪魔されただけってことになる。
…まぁ、作戦に乗ったのは私なんだけどさ。
「………………」
ちゃんとした会話だって少ししかしてない。着物も、まだ褒めてくれてない。
おめでとうしか、言ってない。
…なんか空しくなってきたや。…もういいかなぁ…一抜けしちゃ…。
「…さぁ、おみくじでも引きましょうか」
参拝が終わると、すぐ隣にあるおみくじの列に並んだ。…実は、これが爆弾の合図。
おみくじで、柳生が、動く。
「………」
引いたおみくじをはらりと開くと、そこには『凶』の文字。
…やっぱりこんなのいけないんだ、やっぱり、やめてもらおう。
もし雅治が、あのことを覚えていたら……この爆弾は本当に、爆発させてしまう。
「…さん、何が出たんですか?」
「えっ…」
「ああ、凶ですか。残念でしたね。……私が木に結んであげますよ」
「あ、あの、柳生…」
「どうしました?ほら、さんじゃ届かないでしょう?」
「そうなんだけど…違うの…その」
「?さぁ、渡してください」
駄目だ、きっと嫌がってる演技だとしか思ってない。
柳生は頑なな私の手からおみくじを取ろうとして………刹那。
――ぐしゃっ!!
「!!」
「仁王、君…?」
「……………」
雅治、が…そのおみくじを、勢い良く奪い取った。
「え…嘘…」
「マジで…?」
赤也君とブン太も、あまりの雰囲気に目を疑った。
雅治が、……怒ってる。
「……ま、さは…る……?」
「…………」
雅治は何も言わずに、私たちに背を向け歩き出してしまった。
「雅治ッ!!」
「お、おい……嘘だろ…あんなに怒ってる仁王…マジ怖ぇ…」
「私…どうしよう、やっぱり駄目だったんだ…」
「センパイ…?」
「雅治、覚えてたんだ、去年の事」
「去年?」
去年、二人で過ごしたお正月。
『凶』を引いて落ち込む私を雅治は慰めてくれて、それで、おみくじを木に結んでくれた。
…来年も、俺がこうして木に結んでやる。俺が引いたヤツの隣に、の。
「…忘れてると思ったの、だから、私…」
「…………仁王君は…覚えていたわけですね…」
「ごめん、私行ってくる!!」
何かを叫んでる三人の声を振り切って、私は雅治が歩いていったほうに走っていった。
人が多くたって、私にはちゃんと見える。雅治の姿、キレイな銀髪を。
境内にはいなくて、私は道に飛び出した。そのまま、雅治の家へ向かうほうの道へ走った。
「…どこ…っ…!?」
着物が重くて、はだけて、汗で気持ち悪い。足だってもうどこが靴擦れしてるのか解らないくらい痛い。
それでも走って、走って、人なんかいなくなってからも、走った。
「!!…雅治っ!!」
ついに角を曲がったとき、歩いていた雅治の後姿を見つけて、私は思い切り叫んだ。
雅治は足を止めてくれたけど、振り返ってくれない。
「ごめん、雅治……私…あの……おみくじ…」
「………」
何も言わずに、また歩き出す雅治。
「やっ…待って!!雅治!ねぇ、雅治ってば!!」
息も整わぬうちに私のその後を追って走り出す。
「雅治!!……きゃッ!?」
途端、感覚のない足はもつれて、私はその場に思い切り転んでしまった。
「痛…ぁ……っ」
「………大丈夫か」
「あ…」
ふと顔を上げると、すぐ目の前に雅治がしゃがんでこっちを見ていた。
「…俺が何も思わんと思ったか」
「え?」
「赤也やブン太ばかりに構って、柳生におみくじ結ばせて、俺が何も思わんと思ったんか、」
「…………」
「お前さんは…去年、俺が言った言葉…忘れたんじゃな」
「っ忘れてない!!」
何も言い逃れはしない。だけど、コレだけは絶対に譲らない。
「雅治におみくじ、結んでもらわなきゃだったから…だから、柳生に言われて渋ったんだよ。
拒否しても聞かないしさ、どうしたらいいか解んなかった」
「……」
「忘れてなんかないよ。だけどごめん、雅治の側にいなくて。おみくじのことも、ごめん」
半分泣きそうになりながら、はだけた着物を気にして、私は襟元を引っ張った。
何も言ってくれない雅治の目が怖くて、ずっと下を向いたまま。そんな私の耳に最初に聞こえてきたのは、
「…………ククク…ッ」
雅治の、笑い声だった。
「どうじゃった?俺の怒った顔」
「へ…?」
「知っとったよ。全部」
「えぇぇ!?」
「終業式の日、なんかおかしい思て周りに聞いてみたら、赤也がをつれてったって聞いて。部室に行ってみたら外まで聞こえる大声で馬鹿な作戦会議しとった」
「…………」
「だから大人しく引っかかってやったんじゃよ。…満足か?」
「なっ…騙し返しなんてっ」
「騙しちょらん」
また急に真剣な顔になって、雅治は私を見つめてきた。
「全部、ほんとじゃ。腹立ったし、嫌じゃったし、つまらんかった」
「…………」
「これが仁王 雅治。コート上の詐欺師と呼ばれた男の本質よ。……解ったか?」
そんな雅治の、寂しそうな笑顔、
「ごめんなさい……」
初めて、見た。
ごめんね、ごめんね雅治。
あなたを試すようなことして、本当にごめんなさい。
「ああ、それとの」
「うん…」
「着物、よく似合っちょるよ。…可愛い」
「!!」
「今年も宜しくな、」
「……うん!!」
そうして私たちは、おみくじを木に結ぶため、もう一度神社へと歩いていった。
今度は二人で…一緒に。
end.
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やった!やったよ!あ〜あああ はじめてーのーげふっっっ!!!(殴)
どもです!皐月です!!全部書き上げました!!
ラストは葉菜様にリクエスト頂きました仁王夢 『恋愛インパスター』でした☆☆
皐月は詐欺師なにおちゃんも好きですが、中学生らしいにおちゃんにもキュンキュンします。
それを表したくて、嫉妬して喧嘩になっちゃうのはにおちゃんのほうにしたんです。
さすがにねー、新年早々彼女との時間邪魔されちゃイライラしますよね^^←
まぁ解っててそうしたわけですが(笑)
ちなみに二人で神社に戻った後、オロオロする三人にそれはもうものっそい嫌がらせをしたのは言わずとも予想できるでしょう^^
それにしても…やっと書き上げました…苦節9ヶ月…!!←
二つ上のリクのあとがきにもちょこっと書きましたが、本当にこの9ヶ月色々ありました。
正直、閉鎖を考えたこともありました。
だけど、それでも待って下さっている方々の優しいお言葉を頂く度、閉鎖だけはしないと決めて頑張りました。
これからも、きっと何ヶ月も更新されない月日があると思います。だけど、どれだけかかっても私は夢を書き続けます。
本当の限界が来る、その日までは。
2008年10月1日 皆様に親愛の意と夢を。 拝