「はぁぁ〜……やっぱ人多いなぁ〜……」







東京から大阪に帰ってきてまず思ったのがそれだった。


向こうもたくさんの人はいるが、何と言うか熱気が違う。


人の数が同じでも、熱気が違うとそれだけで数が違って見えるのだ。


おまけに、今日は1月1日。初詣に行く人で街は溢れかえっている。






(えーっと、確かあの子、彼氏と来るんだよね…)





私は毎年、こっちの幼馴染の加奈子と一緒に初詣に行っている。


それは私が上京してからもずっと続いていて、今年もそのつもりだったんだけど、


どうやら新しく出来た彼氏がもんのすごい美形らしく、私に紹介したいんだそうだ。






(まぁ…昔は彼氏との初詣キャンセルしてまで私と行く子だったから、全然構わないんだけど)






むしろそれが原因で新年早々別れたなんて事が前にあったもんだから、それが心配でならなかったんだけど…。


ただ、彼女の友達付きの初詣を彼氏が許したのかどうかが問題だ。


許したとしても、あきらかにお邪魔虫だろう。






「あっ、ー!!」


「!」





まだ少し遠くに見える神社の入り口から、聞き知った声が聞こえてきた。





「加奈子!」


「こっちこっち!」





ようやく加奈子の姿を捉えた時には、隣に立つ彼氏の顔もはっきりと見えた。


うーん…言うだけあって美形だな…。






! あけましておめでとう!」


「おめでとう加奈子。…隣の人が彼氏?」


「ふふふー、せやねんっ。めっちゃカッコいいやろvvv」


「加奈ちゃん、ちゃんと紹介してぇや」


「ああ、ごめん! えっと、彼氏の忍足 謙也!」


「よろしゅうな。ちゃんやっけ?」


「あ、はい。 です」


「同い年やから敬語なんてええよ。…あれ? 関西の人やなかったん?」


「や、しばらく東京にいたから、中々戻らないというか…」


「初めて会うしな〜。あ、そうそう、今日はもう1人のために呼んでるんよ」


「もう1人?」







「すまんすまん、もうみんな集まっとるみたいやなぁ」






その時、後ろから声が聞こえて、私はその方向を振り返った。


そこには、黒髪にメガネの男の人。






「………!」


「?」






その人は、私を見て一瞬目を見開くと、すぐに笑顔でこう言った。






「… さん…やんなぁ? 話はこいつらからよう聞いてるよ」


「そうなんですか…」


、こっちも同い年やよ。で、謙也のいとこで侑士!!」


「なんやその取ってつけた様な説明…」


「私にとって侑士は謙也の付属品やもんvv」






忍足さんはため息を一つ着くと、さっきの笑顔でまた私に笑いかけた。






「まぁ、そういう訳やから…今日は一日よろしゅうしてな?」






この人も中々美形だなーと、そのときの私はのん気に考えていた。



























































< 夢であるように >








































































「…………」


「…………」






すぐ前でラブラブな空気を漂わせている加奈子と謙也君の後ろで、私と忍足さんは微妙な空気を漂わせていた。





「あー、その、ちゃん。…あけましておめでとう」


「おめでとう…」


「はは…初めて会うもんなぁ、何喋ったらええかよう解らんわ」


「そうだね…。あ…私の事は加奈子から聞いてるんだよね?」


「ああ、せやで」


「私も忍足さんの事、少し知ってるよ。東京でテニスしてたでしょ」


「知ってるん?」


「噂だけね。だから顔は知らなかったんだけど…忍足さんも謙也君も美形だねぇ」


「……なぁ、その『忍足さん』っての今からナシな」


「え?」


「謙也は謙也君て呼んでんのに、俺だけ寂しいわ」


「じゃ、じゃぁ…侑士君?」


「んー、何かちゃうなー」






忍足さんは考えるように一度空を見上げ、少し意地悪そうな顔で微笑んだ。





「…侑士、やな」


「よっ呼び捨て!?」


「ええやん。な、


「…………侑士って女の子の扱い上手そうだよね」


「そない拗ねても可愛いだけやで?」


「………」





いきなり呼び捨てで呼ばれて、心臓が跳ね上がった。


だって、今までこんなカッコいい人とお近づきになった経験がない。


侑士は背も高いし、頭良さそうだし、スポーツできるし…私から見て完璧な人間に見える。


……そんな人と初詣に来てるなんて……夢みたいだ……。






「って、あれ? ……加奈子たちは?」


「え?」





前を歩いていたはずの2人が見当たらない。


出店を見てるのかと思ったけど、ここから見える範囲にはいないようだ。





「あ、メール着たわ」


「何て?」


「えーっと…。……………………いや、何でもない。気にせんとって」


「えっ何で? 2人からでしょ?」


「あー、その、一旦別行動しましょってだけや」


「…なんか怪しい…」


「何でも無いって! ホラ、先にお参りしてまうで」






何かを隠しているようにも見える侑士に続いて、私はお参りの列へ向った。






「…………」


(…こういうのって何お願いしたらいいんだろう…)






いざお願いをするとなると、何も浮かばなくなってしまう。


隣で静かに目を閉じている侑士を盗み見して、見惚れそうになる自分を必死に抑えた。






(神様……お正月からいい夢見させてくれて有難う…!!)






さっきからドキドキしてて、上手く呼吸ができない。


こんな甘い感覚を味わったのは久しぶりだ。ここしばらく就職活動やら卒業製作やらで忙しくて、恋愛なんてする暇が無かった。






(って恋愛って決め付けるなよ自分…!!)


「…どしたん? 大丈夫か?」


「えっ!? あ、うん大丈夫大丈夫…!!」


「………ふーん。ほなおみくじ引こか」





何か一瞬、含みのある目で見られた気がしたけど、特に気にすることなくおみくじを引く。





「あ、大吉!」


「マジで? 俺アカンわ……末吉」


「…中途半端だね」


「あーアカンへこむダルイ」


「なっ……!!///」





すると侑士はいきなり何を思ったか、私の肩に頭を乗っけてきた。


手っ、手が腰に回ってる…!!///





「ちょっ、侑士!!///」


「今年1年末吉やで? 末っ子やで? 一番下の子やでー……?」


「…あぁもぉー……」





そのうだうだ具合にいい加減イライラしてきた私は、勢いよく侑士を引っぺがした。





「おみくじぐらいでうだうだうだうだ鬱陶しいなぁ! 大阪人やったらネタにして笑い飛ばしぃや!!」


「……………」


「あ……ご、めん」





しまった…怒ると大阪弁に戻ってしまうクセが………。





「……っあははは! おもろいなぁ、は」


「へ? 怒ってないの…?」


「むしろええもん見せてもらいましたわ」





末吉のおみくじを木の枝に結びながら笑って言う侑士が、何だかさっきと打って変わってカッコよく見えた。





「いきなりセクハラ紛いな事してごめんやで? ちょっとした冗談やったんや」


「冗談って…」


「やー、でも本気で怒ってもらえるんて嬉しいな」


「!///」


「ん」


「え?」





目の前に差し出された手の意味が解らなくて、私は首をかしげた。





「おみくじ。の背やと枝に届かんやろ?」


「あ……有難う…」


「俺の隣につけとくな」





末吉の隣に結ばれた大吉のおみくじ。それを見ていると、何だかきゅうに胸が苦しくなってきた。


あのおみくじはずっと側にいられるけど、私は今日が最初で最後だから。


所詮、侑士は加奈子たちが気を利かせて連れてきてくれた今日だけのお友達だもん。


……好きになるかもしれない、なんて曖昧な気持ち、伝えられるわけが無い。





(そうよ…こんなかっこいい人と新年早々一緒に居られただけでも私にとっては奇跡だわ。

 …いい初夢だったという事にしよう…)





「…1人で百面相?」


「!」


「ホンマ、っておもろい子やな」


「そんな事ない――― !」





否定しようとした言葉が、途中で途絶えた。


気がつけば、私は侑士の腕の中にいたから。





「ゆっ、侑士!?」


「堪忍やで。……今度は冗談やない」


「え……?」


「ずっとな、加奈子や謙也からの話聞いたり、写真見せてもらったりしてて…気になっとってん、実際どんな子か」


「………」


「そんで今日も呼んでもらってんけど…本人は写真よりやたら可愛いし、話で聞いてたよりめっちゃ面白い子やってな。

 今日ずっと心臓ばくばくいうてたんや」


「かっ、可愛くないし…」


「いーや可愛い。…せやから、ホンマは2人っきりにしてもろてん。さっきのメールはそれ」





私の憎まれ口も気にせず、侑士はぎゅっと私を抱きしめてきた。





「なぁ、俺と付き合ってくれへん?」


「へっ!?」


「アカン?」


「や、アカンっていうか何ていうか………そんなの、困る、よ」





こんなに心臓が早くても…それはきっと侑士がカッコよくて焦ってるから、だもん。


きっと恋じゃない。





「私、4月から東京で就職決まったし」


「俺も今は向こう住んでるんやで?」


「…就職したら、忙しくなって会えなくなるし」


「俺は時間作るよ」


「私は……そんなに要領よくないから、きっと気持ちもすれ違っちゃう。

 …それを解りきってるのに、こんな中途半端な気持ちじゃ付き合えないよ!」





私が少し力を入れて侑士を押し返すと、侑士はあっさりと私を離してくれた。





「中途半端ってことは…少しは俺の事、気になってくれてるんやろ?」


「………」


「なぁ、俺、頑張ったらアカン?」


「……んで…」


「え?」


「何で…『いい初夢だ』って…思ってたのに…そんなこと言うの…?」


……」






「お願いだから…このまま『いい夢』で終わらせて…」



「っ!?」






いつの間にか零れていた涙を振り切って、私は人ごみの中を走った。





「あれっ、ー?」


「侑士は…って、ちゃん!?」





途中、加奈子たちとすれ違ったけど、私は足を止めなかった。


この人ごみじゃ、侑士だって追いつけない。だから止まらない。







「…好きになっちゃだめ……好きになっちゃだめだよ……!!」






―――好きになっちゃ…だめなのに………っ……

































































時は流れ、4月。


入社式の会場を前に、私は降ろしたてのスーツを着てため息をついた。


情けない。結局お正月から今日まで、ずっとこの気持ちを引きずったまま。


たった数時間で、心を奪われたあの日の事を。







「―――コラ。今まで音信不通で、どこで何しとったんや」



「!」






その声に、はっと振り返る。まるであの日、始めてあった時のように。


けど、お互いの表情はあの日とまるで逆だった。





「嘘……侑士…!?」


「全く…言おう思とったことあったのに、今日まで一回も連絡とれんてどういうことやねん」





侑士もスーツを着込み、だがお正月と何ら変わらない雰囲気でそこに立っていた。





「な、何で侑士がここに……」


「俺もと同じ会社受けたんや」


「え!?」


「あの後すぐにな、最終応募に滑り込んだ」


「何でそんな事………」


「そんな事て、と一緒に居たいからに決まってる…やん、か……」





侑士は私の顔を見て言葉を途切れさせた。


私が、いつの間にか涙を流していたから。





「もうっ…やること一々、カッコよすぎ…っ…」


「…なぁ。、正月に、いい初夢やったことにさせてって言うたよな」


「………うん」


「初夢だけにせんでええやん」


「!」





侑士は私を優しく抱きしめると、耳元で、呟いた。





「…毎日夢でええやん。と一緒におれるんやったら、俺は夢でええ」





「ゆう……し……」


「俺はの事が好きや。…は…?」





「………私も、好き…」





これから過ごす日々が、


あなたと共に生きる、夢であるように。











































































end.




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っはぁぁぁー!!Σ(゜□゜)


と一息ついて、皐月です☆彡 ←何


そろそろ皆さん学校が始まって忙しくなってきたんじゃないでしょうか。


皐月は明後日から学校です。羨ましいだろ((殴←教育的指導、入りまーす


げふんげふん。


えー、今回リクエストして頂いた、初夢 若葉様!! 本当に有難う御座いました!


侑士にさらに謙也と来て、むしろ私が吐血しそうでした^^(パソ子壊れるよ!!)







今回書かせて頂いた『夢であるように』は、リクエストの時点では4月に入社式で再開して発展していく、という流れだったのですが…


侑士がせっかちだったので正月の時点で告っちゃいました☆彡(オイ)


というのはお茶目な冗談で、でも本当にキャラが勝手に動いてくれたんですよね。


私もパソコンでカチカチ打っていく内に、「あれ? コイツ告っちゃった…」となりました;(本当に;)


でもその方がいいかなーと思いそのまま書き進めたのですが、もしも若葉様のイメージに沿わないものであれば本当に申し訳ありません><;







実はまだ宿題終わって無いんだよ…!! という方もいらっしゃるでしょうが、私もまだですからご安心下さい!!(オイ)


寒さに負けず、宿題にも負けず、ついでに先生の小言にも負けず(笑)、暖かい春に向って頑張りましょうね!


初夢 若葉様、そしてこれを読んで下さった貴女、本当に有難う御座いました!







2008年1月10日   拝