さっきから心臓がドキドキとうるさい。


私はそんな気持ちを抑えるために、ずっと時計を凝視していた。


だけどその行為はさらに自分を追いつめる。


デジタル時計の数字が増えていくたびに、鼓動が早くなっていくように感じるのだ。





「はぁぁ…」





タクシーの中で大きく息を吐く。


明らかにそわそわしている私の様子に、さっきから運転手さんは笑みを堪えきれずにいるようだ。





「ねっ、年末もお仕事なんて大変ですね…」


「お客さんみたいに利用してくださる人がいますからねぇ」


「そ、そうですか…」


「やけに緊張されてるけど、今からパーティーですかい?」





運転手さんはバックミラーに映る私の姿を見てそう言った。


ヒールの高い靴に、白いファーのコート。


そして、黒髪に映える、真っ青なドレス。





「えへへ…はい」





これは全て、景吾が誕生日に買ってくれたもの。


パーティーに行く機会の多い景吾。『俺の女だって周りの奴らに見せ付ける』んだって。





「跡部邸のパーティーか…。さぞ豪華なんでしょうな」


「ですよね…っ」





はぁぁっ、また緊張してきた…!!


景吾の家まで、もう、すぐ、そこ。







































































< 時の数だけ薔薇を咲かそう >
















































































「……………、お前、なんて格好してんだ?」


「……………いや、あの、景吾こそ…なんで私服?





玄関先で迎えられ、互いの第一声はソレ。


しかもいつものメイドさん達のお出迎えはなく、無駄に広い玄関ホールがさらに広く感じてしまう。


だからだろうか。いつも通りの景吾の格好の方が場違いに見えてくる。





「ああそっか! もうパーティー始まってるから誰もいないんだね!」


「アーン? …いや、メイドは全員休暇を」


「やっぱあとベッキンガム宮殿は違うねぇ〜!! ここまで全ッ然声聞こえないもん!」


「おい、?」


「で、どこでパーティーやってるの? お庭? それともメインホール…」








景吾に腕を掴まれて、私は言葉を途切れさせた。





「現実逃避してんじゃねぇよ。パーティーなんかやってない


「…………」





がーーーーーーーーん(典型的効果音)





「っなんでなんでなんでぇぇー!?

 だって跡部でしょ!? 大企業でしょ!?

 豪華な食事囲って有名人招いて朝までどんちゃん騒ぎいつの間にか年明けてるじゃーん!やっちゃったゼ☆パーティーはぁぁぁ!?」


「なんなら精神病院で年を越すか?」


「ごめんなさい騒ぎすぎましたごめんなさい」


「…大体なぁ、俺が一言でもパーティーを開くなんて言ったか?」


「ううん。でもやると疑わずにドレスまで着て一人で浮かれてました


「ったく…まぁ支障はねぇけどな…」





景吾はいつもと違って すっと手を差し伸べてくれた。(いつもは強引に掴む)


これがドレスを着た女の扱い方かーと思ってその手に自分の手を重ねると…





「…俺はてっきり、お前は『二人きりで年越しをしたい』って言うと思ってたんだがな…」


「!」


「本当は父親の取引先のパーティーに招待されてたんだが、断ってここにいるんだぜ?」





そう言った景吾の笑顔は、年相応で何だか可愛く見えた。





「嘘っ、ごめん」


「構わねぇよ。第一、乗り気じゃなかったしな」





どこを通っても、廊下には誰もいない。…若干怖い。


さっきチラッと『メイドには休暇をやった』みたいな事聞いた気がするけど、もしかして…


今日誰もいない?





「着いたぞ」


「!」





はっとして前を見ると、いつの間にやら景吾の部屋の前まで来ていた。





「ねぇ、景吾。…今日、この宮殿誰もいないの?」


宮殿って言うな。……いや、まぁ二名のメイドと執事、あとコックが数名、だけだな」


「そ、そう…」


「…アーン? 何期待してんだ?」


「べっ、別に!! 私は景吾とお正月を迎えたいだけだし?」


「はっ。…心配しなくても、俺様の部屋には誰も来ねぇし、来させねぇよ」


「ッ…///」





いやっ、別に期待とかそんなんじゃなくて、ほんとにちょっと若干気にしただけですからっ…!!





「……おら、早く入れ。すでに料理は運ばせてある」


「! じゃぁ豪華な食事はあるんじゃん!! そういうのは先に言ってよ〜!!」


「…本当に単純で飽きねぇな、お前は」





小さくため息をつく景吾を放置で扉を開けると、中からはいい匂いが漂ってきた。





「うわぁぁ〜…! やっばい私今日で3キロくらい太るかも


「…ごちゃごちゃ言ってっと、今夜3キロ分の運動させるぞ


「ごめんなさい静かに美味しく頂きますごめんなさい」


「…俺様をか? やけに大胆じゃねぇか…」


「くっ、首を舐めるなぁッ!!///」





入って早々セクハラを受けつつも、私は食欲が限界に達して耐えられず、多少無理やり景吾を引き剥がしてテーブルに向った。





「…ちっ…まぁいい。夜はまだまだ長いしなぁ? …?」


「う……い、いいから今は食欲を満たすの!!///」


「食欲の次は何の欲を満たすんだ? アーン?」


「……何で今日、そんなにドSなの……」





景吾は笑いながら、すでに食事に手をつけている私と並んで食べ始めた。


私たちは時折会話を挟みつつも種類ある料理をちょこちょこお皿に取る。(なんか簡易バイキングみたい)


一応つけていた大きなテレビは、人気の芸人を集めたバラエティー番組を映していた。


どうやらカウントダウンが5分経つごとに、引いた紙に書かれた内容をこなさなければ罰ゲーム、みたいな内容。


私がそのテレビを気にし始めた頃には食事は終わっていて、ソファーでそれを見ている内にいつの間にか食器類は片付けられていた。





「そんなに面白いのか?」


「景吾」





景吾が隣に座ると、ふかふかのソファーが少し沈んだ。





「うん。景吾はあんましバラエティーとか見なさそうだよね」


「基本見ねぇ。だが、こういったものはたまに面白い企画を考えやがるからな。気になった企画があれば見る」


「…お笑いバラエティーなんだからもうちょっとソフトな観点で見ようよ」


「アーン? ……そうだな。今やってるのは…」


「5分ごとにお題クリアしなきゃ罰ゲーム、だって」


「…今は…11時30分か。じゃぁ。俺様からお前へのお題だ」


「は?」






「今から5分以内に、『俺様が最も喜ぶ言葉』を用意しろ」






隣でにやりと笑う俺様に、私は理解できないとばかりに眉をひそめた。





「……なに?」


「今から5分だから、11時35分だな。丁度今テレビでやってるお題も35分がタイムリミットだ。丁度いいだろ?」


「いや何が丁度いいのか解りませんから」


「よく考える事だな」


「ちょっと景吾!?」


「…………」


「うわっ、言うだけ言って無視かよ」





にやりとした微笑みは残したまま、テレビに向きなおした景吾。


とりあえず私も無視し返してテレビに入り込む。





「………っあははっ」


「…………」


「ぷっ…馬鹿じゃん」


「…………」


「あ〜あ、やっちゃったよ」


「…………」


「いやいやそっちじゃないでしょ! ほんと体張ったギャグするよね〜」


「…………で、答えは?」


「はい?」


「5分だ」





あ、そういえばお題終わってるや。


つーかこっちのお題に関しては全く何も考えてなかったんだけど。





「えーと、景吾が喜ぶ言葉…?」


「5、4、3」


「えぇっカウントダウンとか無しっ!!」


「2、1……答えは?」


「う〜……お、『おせちにはローストビーフのヨークシャープティング添えを入れるとコックが言ってましたよ景吾さん』


「不正解」


「………まぁそうでしょうよ……って、うわっ!?」





いきなり腰に手を回されたと思ったら、そのまま引き寄せられて景吾の膝の上に乗せられた。





「ちょっと景吾!?」


「不正解だって言ったろ? ……罰ゲームだ」


「っん……///」





首に顔をうずめられたかと思えば、そこに快感めいた痛みが走った。


景吾の唇が離れた後には、くっきりと赤い華が咲いている。





「…次」


「へっ………」


「45分までのお題。『俺様が最も喜ぶもの』は何だ?」


「ね、ねぇ景吾…っ」


「…………」


「また無視…」





膝の上で腰を抱きしめられたまま、後ろに景吾、そんな状況でまともにテレビが見れるわけがなくて。


私はドキドキする心臓を落ち着かせながら、なんとか答えを考えようとしていた。





(景吾が喜ぶもの…? 今度は言葉じゃなくてものですか目に見えるものですか。ってことはプライスレスなものは望めない…。

 ここでまた『ローストビーフのヨークシャープティング添え』とか言ったら確実アウトなんだろうな…。あ、でも引っ掛け?

 そうか引っ掛けか! うんうん、景吾はこういうとこ悪どいもんね! きっとこれ引っ掛けだ!

 だって景吾の好きな食べ物はローストビー…)



「…『ローストビーフのヨークシャープティング添え』なんて言いやがったらタダじゃおかねぇぞ」


「ごめんなさい」





やばい相手は心が読めるぞ、





「…45分だ。答えを聞かせてもらおうじゃねぇか」


「………めん…」


「アーン? 聞こえねぇよ」


「…テニスコート500面」


「そんなにいるかっ」


「ひぁ…っ!」





私が答え終わる頃には、すでにうなじに景吾の吐息がかかっていた。


かと思うと、すぐに唇が降ってきて、また体に電気が走る。





「…最後のお題だ。55分までに、『俺様が最も見たいもの』を見せろ」


「うえぇぇ…?」


「今度はまともな答えを期待してるぜ?」





どんだけ私で遊べば気が済むんだこの俺様は。


そう思うけど、それすらこの動悸にかき消される。





(景吾が…見たいもの…?)





そんなの…知らないよ。そんな話聞いたことすらないもん。


景吾が納得する答えなんて、景吾しか知り得ない。


テレビで芸人がこなしてる『確かな答え』があるお題とはまるで正反対。…無理難題だ。





「…55分。…考えたか?」


「…………」


?」


「…わっかんないよぉ…」





なんかだんだんむなしくなってきた。


何でこんな事しなきゃいけないの、とか。あと少しで年が変わっちゃうのに、とか。





「…そんな声出すな」


「だって…」


「まぁいい、罰ゲームだ…」





ドレスの肩紐が落とされ、首元に景吾の髪が当たってくすぐったい。


唇が肩に触れる瞬間、私は目の端に、20秒前、と表示されたテレビ画面を捉えた。





「いや…っ」


「…?」


「景吾の顔見ないで年が明けるのは嫌っ!」





私は体を反転させ、すでに流れていた涙を振り切って叫んだ。





「ちゃんと私を見てよ、一人で愉しまないでよ…っ」


「………」


「こんなトコにキスしないで、ちゃんと……」





10秒前をカウントする声が聞こえる。


でも私たちが見ているのは、お互いの瞳。


景吾の綺麗な青い瞳を見つめながら、その頬に手を当てて、―――――――





「キス、させてよ…」





―――――――そっと、唇を押し当てた。





「…………」


「…………」





テレビから聞こえる喧騒で、年が明けたんだろうな、と認識する。





「…お題、全部クリアしたじゃねぇか」


「え……?」










「俺はな、そうやって瞳潤ませながら自分から俺を求めてくる、そんなの姿が見たかったんだよ」










稚拙でもいいから、言葉にしてほしかった。


それを態度に示してくれれば、もっと嬉しいし、





―――その顔が、見たかった。











「…なんか、色々どうでもよくなっちゃったじゃんかぁ…」


「何も考えられなくしてやるよ。…たっぷりと時間をかけてな…?」


「…ッ…///」











きっと朝には、



大輪の薔薇が咲き乱れていることだろう。
































































end.




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どぉぉーーーーーーーーーーん!!(何


跡部様どーーーーーーーーーん!!


なんか今私の中でべ様ブーム来てます。イイですね。





そんな感じで今回書かせていただいた『時の数だけ薔薇を咲かそう』!!


ナミに「何か書くよー」と言ったら「べ様で」としか言って貰えなかったので(しょぼん)設定とかは勝手に作りました☆←


つーか見返してみたら下ネタ多いなッッ!!


最後の『きっと朝には、大輪の薔薇が咲き乱れていることだろう。』とか、


モロねぇ…べ様ヤる気満々というかむしろヒロインがヤられる気満々ですよね。(コラww





ではでは今回もお待たせして申し訳ありませんでした。


やっと折り返しですが、あと半分お付き合い願います。









2008年4月10日   拝