――キーンコーンカーンコーン……


遠くで微かに、チャイムの音が響いていた。私はそれを聞き流し、コツコツとローファーを鳴らし階段を上っていった。


辺りはとても静かで、人の気配も無い。当然だ。今頃体育館では始業式が始まってるはず。さっきのチャイムがそうだ。


私が今いる校舎はその体育館とは真逆の方向にある。…まぁ事のつまり、サボリという事だが。


どうしてこの私が新学期早々サボりなんてしなきゃいけないって、原因はこの階段の先にいる。






「……仁王!」






一息ついて、屋上の扉を勢い良く開け放つ。


そこに見える私の姿に奴――仁王 雅治は屋上の真ん中に寝そべりながら視線だけよこした。






「おう、あけましておめでとう」


「おめでとう、じゃないやい。どういう事よこれは」


「何のことじゃ?」


「こ、れ、よ!」






仁王のすぐ側まで詰め寄り、目の前に二枚のはがきをちらつかせてやる。






「何でアンタに送った年賀状は宛先不明で帰ってきてんのに、アンタから私宛てに年賀状が届いてんのかしらね」


「そんなことより


「何よ」


「…誘っちょる?」


「は?」






寝そべっている仁王の視線は、すぐ側に立っている私のスカートの……






「っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」




















































































































< Secretcode >












































































































「最低、まじ最っ低、ありえない、ありなさすぎる」


「いい加減機嫌直しんしゃい」


「無理。…っていうか忘れて、全て忘れて」


「迷彩柄、ワンポイントにスカルのマークか…なかなかええ趣味しとるの」


「言うなってばッッ!!」






仁王に背を向け勢い良く座り込む私の背中に、仁王は起き上がりもたれかかるように座った。


その手には正月前に出したはずの私の年賀状を持ち、妙ににやついた表情をしている。






「…それ、アンタに教えてもらった住所通りに書いたんだけど、何で帰ってきてるわけ?」


「間違った住所を教えたからじゃないか?」


「ほんと最悪な人種ね」


「でも、はちゃんと解ってくれたじゃろ?」


「今時あぶりだしなんて手法使うの、アンタしかいないでしょ」






こっちの住所しか書いていない、白紙の年賀状。微かに香るみかんの匂いにまさかと思ってコンロであぶってみたら…






『すごいの、気付いたか。きれいにあぶりだせとるか?だめじゃろうな、じゃし。(笑)


PS.文句が言いたいなら、始業式に屋上へ来ることじゃな』






「…なんて言われたら来るしかないでしょ。つーか普通にあぶりだせるわよ」


「いい子じゃの〜」


「ちょっ、頭撫でないでよっ」






仁王は私の頭を撫でていた手を止めて、急に真剣な目を向けてきた。


私はいきなりなその視線に少し固まってしまい、その目を見つめ返した。






「…とのんびり過ごしたかったんじゃ。…駄目だったか?」


「………ッッ」






一瞬で顔を赤くする私を見て、仁王はそれはそれは楽しそうな嫌な笑いを見せてきた。






「あぁぁぁぁッ!!また妙な嘘ついたな!!この詐欺師!!」


「おいおい、それはコート上での名じゃ。いつもの俺はただの純情な中学生じゃよ?」


「純情って部分だけは完全に否定する。ありえない」


「悲しいのぉ…そんなに俺はテニスでの印象が強いか。……だけは、本当の俺を見てくれると思ったんだが」


「な…………」






コート上の詐欺師、仁王 雅治。


いつだってその名に相応しく飄々と日々を過ごしているくせに。


………なんだよ、その、ちょっと悲しそうな笑顔は。






「…私だって、あんたをちゃんと真っ直ぐ見たいよ。…けど、どれが本当か解らないもん。今のその表情だって、またからかわれてるんじゃないかとか、思っちゃうじゃんか」


「クク…正論じゃな」


「本当の自分を見てほしいなら、偽らないでよ。…隠さないでよ」






3年間同じクラスで、何故かいつも席は隣か前後で、


それだけ一緒にいて…初めて話した本音。






「…仁王…?」






何も言わない仁王を不審に思って顔を覗き込むと…





……………笑うのを堪えてやがった。






「仁王!!!」


「そんな大きい声を出すもんじゃない。ここでサボってることバレてしまうぞ?」


「う………てか、また騙したな…この詐欺師」


「何も騙しとらん。何も言わんと笑ってただけじゃ」


「それが騙してるってことでしょー!」


「はいはい静かに静かに。……これでジュースでも買ってきんしゃい」






そう言って仁王が私の手に落としたのは二人分のジュース代。






「…今私たちサボってんだよ?」


「そうじゃなぁ」


「自販機どこにあるか、解ってる?」


「一階じゃなぁ」


「……………」


「いってらっしゃい」


「…行ってきますッ」






すっかり機嫌を悪くして立ち上がり、バタンと屋上の扉を閉めてその場を離れた私。


少しの間があったあと、仁王は空を見上げ小さなため息をついた。






「ククク……飽きないの…」






その表情は、詐欺師と呼ばれる男には似つかわしくないほど穏やかだった。





























































































「全く…いくら始業式だからって、みんながみんな体育館にいるとは限らないんだよ?見つかったらどうするつもりなのさ」






文句を言いながらも小銭を自販機に押し込む私。


仁王はコーラとかそんなんでいいでしょ。適当だ適当!コーラ100円だし。学校の自販機て安くて便利よね。


私の分買ってもお金余るし、食堂でアイスでも買おうかしら。冬にアイスはなかなかの贅沢だし。


あー、でもさすがに食堂は危険か…?






「ま、ジュースあればいっか…」






コーラとオレンジの缶を持って踵を返す。


ふとよぎったのは、さっき仁王が見せた、悲しそうな笑顔。


…なんか、あの顔は反則だと思う。激しく思う。


そうだよ、あんな顔されたからこんなパシリみたいなこと引き受けちゃったんだ!…なんかムカついてきたぞ。






「早く帰って文句の1つも……きゃっ!?」






曲がり角を曲がった瞬間、何かにぶつかって私はその場に尻餅を着いてしまった。






「あたたたた……」


「…ではないか。こんな所で何をしている」


「へ…?ぁ…ッ……!!!」






恐る恐る見上げた先には、『THE☆堅物 SANADA』の姿。






「今は始業式の途中だぞ。何故こんな所にいる」


「……」






………………以下、状況を脳内変換してお送りしまぁすvv






SANADAが現れた!!


のターン!!
  攻撃
  魔法
  防御
  アイテム
  逃げる


の攻撃!!






「さっ、真田こそ何してるのかなッ!?」


「俺は担任に頼まれて日誌を職員室に取りに行っていた。今から体育館に戻る」


「あ、あぁ〜、真田のトコの担任抜けてそうだもんねぇ〜、忘れてきちゃったんだ?」


「うむ。同じ生徒ならばたるんどるの一言も言えるのだが、いかんせん相手は教師だ。

 それに、全校生徒や他の職員の前で自分の教える生徒に注意されては恥ずかしいだろう。後で個人的に少し注意せねばならんな。

 まぁ何故かそういった失敗を許せてしまう人柄の教師なのだが、しかし人に物を教える立場にある教師たるもの、いつ何時でも己を律し、

 人の上にいる自覚を持たねばならん。そういった点では王者立海として部のまとめを任された自分にも同じ事が……」






SANADAのターン!!


SANADAは謎の呪文を唱えだした!!


は冷や汗を大量に流しだした!!






「…………」






のターン!!


は逃げ出した!!






「だからこそ……む、。どこへ行く」


「ッ!!」






は逃げられなかった!!






「…お前まさか、サボっていたのではあるまいな?」


「ふへッ!?まままままさかぁ…!?」


「言動がおかしいな。来い、何にせよ俺と一緒に体育館に戻るぞ」


「え、ちょっ、ちょっと待って……っ」






「―――――ちょーっとストップじゃ、真田!」






私のパニクッた頭を現実に引き戻したのは、


誰でもない、仁王だった。






「仁王!お前までこんな所で何をしているのだ!!まさか二人してサボリとは、たるん……!!」


「こんな所にいたんじゃな!!大丈夫だったか吐き気はないか全くだから無理をするなと言ったんじゃ!!」


「に、仁王、おい…!!」


「あーあーこんなに冷や汗かいて!さっきより顔色も悪いんじゃないか!?心配をかけたくないなら大丈夫なフリはするな!!」


「仁王…っ」


「真田も真田じゃ!こんな具合の悪そうな女子捕まえて何が『体育館に戻るぞ』じゃお前さんは阿呆かまず保健室に連れて行くとかそういう考えが浮かばんのか阿呆


「む、むぅ…」


も『一人で大丈夫』なんて嘘はやめんしゃい。折角俺が送ってやると言うてやっとるのに。…ほれ立てるか?帰るぞ」






真田が喋る隙を一切与えず、普段からはありえない文字数を一気に喋り終えた仁王に手を差し出され、私は呆然としながらその手を取った。


…えーととりあえず…


アンタどさくさに紛れて二回ほど阿呆とか言ってませんでしたか?






「つーことで真田、悪いが俺らは早退っちゅうことで担任に言うといてくれ。体育館に行く前にコイツが倒れたけ、点呼も取っとらん。あー、だったら欠席扱いかの。頼めるか?」


「う、うむ…任された」


「じゃぁ俺らは帰るぜよ。、そのジュース鞄に入れんしゃい」






ジュースを私の鞄に押し込まれ、支えるように腰に腕を回され歩き始めた。


一人ポツンと残された真田を背中に、私は隣で仁王が笑いを堪えているのを呆れながら見つめていた。






「全く…アンタって男はどこまで人騙せば気がすむの…」






学校を出てしばらくしてから口を開くと、仁王も声に出して笑い始めた。






「ククク…さぁての?」


「……まぁ、今回は助かったけど…」


「これで本格的にサボれるのぅ…俺ん家でも来るか?」


行かない。……って待って。助かったって言うか原因アンタだし!!」


「そうだったかのー?」


「そうよ!!!」


「まぁなんでもよか」


「私はよくないーッ!!ていうかいい加減腕離してよ、セクハラ!!」


「どうしたんじゃそんなに騒いで」


「だーかーらー!!!」






敵意をむき出しにする私に、仁王はありえないほど穏やかな笑顔を見せた。






「………」


「なんじゃ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」


「べ、別に」


「………全体的に、鈍いの…」


「何がよっ!?」






それは、仁王の年賀状に隠された暗号。






















す    ごいの、気付いたか。


き    れいにあぶりだせとるか?


だ    めじゃろうな、


   じゃし。















































































end.



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なんて言えばいいのかいやむしろもう私に発言権は残されてはいまいゴメンナサイorz

言い訳は色々ありますが言えません。私には言い訳すら言える権限がアリマセン…ッ;

一応説明させて頂きますと舞台、学校、喧嘩、入院とかまぁそんな感じです。

後ろ二つが馬鹿すぎてスイマセン;

こうなったらまとめてUPしますんで!!今度こそ!!完済人になりm(ry




今回は逝鬼様リクエストの仁王夢!『Secretcode』です。

あぶりだしって皆さんご存知ですか?なんか専用のインクもあるらしいですが、柑橘系の果物の汁を使ったサプライズです☆

汁で文字とかを書いた紙を火であぶると…あら不思議!!果汁がこげてそこが文字になって浮き出てくるのです!!

でも多分はがきとか丈夫な紙じゃないと燃えちゃうかも…火の取り扱いは充分ご注意を。

で、そんなトリックを使ったいかにもにおちゃんらしい年賀状で、今回のお話は膨らませていきました。

当初は真田を使うつもりはなく(←)先生を使おうかと思ったんですが、それだとキャラが薄かったので急遽引っ張ってきました。

におちゃんも騙しやすくてよかったはず(笑) こういう意気なことしてくれる友達ほしいですよね…。




ついに、ラス2!!!!!

本当絶対忘れられてますよね…。

それでも書きます、いつかまたきてくださると信じて…!!←











2008年9月30日   拝