心臓が、ね。


止まるって、本気で思ったの。


お正月、雪も積もって寒ーい朝にね、表へ出て、ポストを空けた瞬間。





「……え…」





すぐに香ったのは、あなたの香水の匂い。


慌ててポストから年賀状をバサバサと取り出して、その一枚を拾い上げた。










『 





     忍足 侑士 』









どくんって、心臓が確かに跳ね上がったの。


まさか、あなたから年賀状が届くなんて、夢にも思わなかったから。





「はい、お母さん!!」


「ちょっ…!?」





家族の分の年賀状をリビングに置いて(若干投げ捨てたけど)、私は自分の部屋に駆け込んだ。


息も落ち着けないまま、あわてて手に取ったはがきの裏面を見る。


そこにはキレイな文字で、彼らしい言葉が載せられていた。





『あけおめやでー。

さんの友達に、勝手に住所教えて貰って出しました。

ごめんやで?でも出したかってん。

もし今日(あ、一日のことな。)暇やったら学校来てくれへん?

せやなー、11時くらいに。テニスコートで待ってるから♪』





どうやらはがきの端っこに香水をつけてたみたいで、まだ匂いが鼻をくすぐる。


私は何だか嬉しくなって部屋を転がりまわった後、ふと目に付いた時計に気付いて慌てて準備した。





片思いの相手が年賀状をくれて、しかも呼び出しまでされて。


今年は一日早々いいことが続いて…少し手が震えた。






































































































< 白銀のセカイに愛を刻んで >



































































































「っはぁ…」





氷帝学園の前まで行くと、警備員さんが通用門のところにいた。


生徒手帳を見せるといつもの優しい笑顔で門を開けてくれる。良かった、持ってきて。


そのまま足早にテニスコートの方へ歩いていくと、心臓のドキドキがだんだん高くなっていった。


もうすぐ、もうすぐ、忍足君に会える。


学校の人の誰よりも早く、忍足君に『あけましておめでとう』って言える。


そんな気持ちで、コートのフェンスを開けると…





「わぁ…!!」





お休みだからネットの張られていないコートは、まっさらな雪であたり一面真っ白だった。





「すっごーい!キレーイ!!…あれ、でもじゃぁ、まだ忍足君来てないのかな…」





11時までまだ10分ある。


私は逸る気持ちを抑えられなくて、お先に新雪をきゅっと踏み鳴らした。


きゅ。きゅ。きゅっ。





「あははっ、可愛い音ー♪」


さんのが可愛えよ」


「へ?」





緊張感の無い声とは裏腹に、心臓はびくりと飛び跳ねる。


大好きな、大好きな、低音の声が確かに聞こえて、私はゆっくりと振り返った。





「お、忍足君っ!?」





私が入ってきた入り口からでは死角になる観客席から、忍足君が楽しそうな笑顔でこっちを見下ろしていた。





「ま、まさかずっと…?」


「せや。ずっと♪」


「………………」





あ………穴があったら入りたい……!!





「な、なんでっ…?だって雪、誰も踏んでなかったし誰もいないって私…」


「観客席は入り口違うからなぁ」


「そ、そうだったんだ」





こっちに降りてきた忍足君。


初めに存在を確認してから一回も、私は忍足君の顔が見れない。





「…どしたん?」


「なっ、なんでもなぃ…です…」


「んー?声ちっちゃいで?」


「あう……」





どんどん真っ赤になる顔を隠したくて下を向いたのに、忍足さんは意地悪な笑顔で顔を覗き込んでくる。





「まぁ、まずは挨拶やな。…あけましておめでとう」


「!」





ぽふっと頭に乗せられる、大きなあったかい手。





「あっ、あけましておめでと…!!」


「おおう、大きい声ちゃんと出せるやん。ええ子ええ子♪」


「……!」





どうしよう、心臓持たないよ…!!





「…さーん?顔上げてくれると嬉しいんやけど?」


「や…今は…無理、です…」


「じゃぁせめて顔見せて?」





もふもふした手袋をつけた手で隠した顔を振り、拒否を表す。





「…ごめんな、急に呼び出したから怖かったやろ?…来てくれておおきにな」


「そん、なこと…」


「はは…ホンマは来てくれるかどうか、俺も不安やってん。やから良かった」





あなたからの呼び出しを、私が無視したりするわけがないじゃない。


…なんて…言えないけど…。





「それで…どうして、呼んだの?何か用事でも…」


「あーストップや。……そんな急かさんといて?」


「ごっごめんなさい」


「用事は最後に言ってええ?」


「え…?」





手袋からチラッと覗くと、忍足君の手が差し出されていた。





「今はそのままでええから。…手ぇつなご」


「…………」





私はためらいがちに、自分の右手を忍足君の左手に重ねた。


ぽふっと音がして忍足君は笑ったけど、ぎゅって握ってくれて。





「ちょっと雪歩こか」


「う、うん」





イマサラになって手袋外しておけばよかったって思ったけど、多分手汗がハンパなさそうだからこれで正解だよね…っ?


未だに視線は下のまま。忍足君も何も言わないから、私は忍足君にリードされてただ雪の上を歩いた。


……………どれくらい経ったんだろう、一瞬だったのか数分だったのか解らないけど、忍足君が急に口を開いた。





「3年連続同じクラスって…すごいと思わへんかった?」


「え?」


「俺とさん」


「あ……ク、クラス数多いもんね、氷帝。ちょっと、奇跡かも」


「それもあと三ヶ月で終わってまうんやなぁ…」





高校に上がったら外部の人もたくさん入学してくるだろうから…人数が増えたら確立も減っちゃうもんね。


次は…一緒にはなれないかなぁ…。





「でもなぁ、俺またさんと同じクラスになるような気ぃするわ」


「ど…どうして?」


「いや、勘やけどな」





そんな奇跡が起こったら…





「…てか、なれたらえーなぁ」


「!!」





奇跡が…起こったら…


いつか、言えるかな。







好きです、…って。







「………やっと俺の顔見てくれたな」


「え……  ッ!!」





思わず見つめてしまっていて、私はまた顔を真っ赤にして俯いた。


…どうしよう、笑顔、見ちゃった…。





「……さん、ちょっと教室行かへん?」


「教室?」


「そう」





私の返事も聞かずに歩き出す忍足君。どこか足早な気がしなくも無い。


握ったままの手が嬉しくて、私も何も言わずそんな忍足君に着いていった。













































































3年H組。


どこから入手したのか合鍵っぽいものを差し込んで鍵を開ける忍足君。


がらりと開けた教室は、冬休み前と何も変わっていなくて、黒板にはクラスメートの書いたラクガキでいっぱいだった。





さん、こっち来て?」


「え…?」


「早く」


「う、うん。………わっ!?」





窓の方にいる忍足君に近寄ると、忍足君は後ろに回って手で目隠しをしてきた。





「やっ…ねぇ、離して…っ」


「そんな萌える声出さんといてやー」


「えぇ…っ…!?」


「こっちこっち」





目隠しされたまま誘導され、忍足君が窓を開けた。





「……お待たせ。…どうぞ」


「ん………わぁ…っ」





三階から眼下に広がる景色は一面白銀で、すごく幻想的で…いつも見ている場所だとは思えなかった。





「すごーい…忍足君、私にこれ見せたかったの?」


さん、そっちやなくて、あっち」


「へ…」





忍足君が指差したのは、さっきまで私たちが歩き回っていたテニスコート。


あ、足跡が何かの文字みたいに見え……て…………。










『   す   き   』   ?










その意味を理解したのと、





「……!!」





後ろから抱きしめられたのは、


同時だった。





「お、忍足、君…?」


「……ここ」


「へ…?」


「ここ、さんの席」





視線だけ振り返ると、確かに右側にあるのは私の席で。





「ここな、俺の席からよぉ見えんねん。さんが真剣に授業受けてる顔も、眠そうにしてる顔も、友達と笑ってる顔も、みんな見えた」


「…嘘」


「嘘やない。…一年の時はいい子やなって思った。二年の時はいつでも笑顔でおるんやなって気付いた」


「………」


「そんで三年になって…その笑顔が、優しくてあったかくて、人を安心させる笑顔なんやって、思った」





耳元で響く低音の声が、脳に浸食していく。


意識を捕らえられて、忍足君以外の音が聞こえない。





「その笑顔で俺のこと見てほしいって……気付いたんや」





遅れて、体全部が心臓になったみたいに脈を打ち出して、どくんどくんって、うるさく鳴り響きだした。


やだ、絶対これ、忍足君にも聞こえてるよ…。





「な、んで?」


「ん?」


「何で、それ、今日言おうって…?」


「区切りがええ日やから。去年までの『クラスメート』から抜け出して、今年からは『の彼氏』になりたかった」


「!」


「コートのあれ、見ながら聞いて?」





言われるまま、私の視線はコートの文字へ。





「……が、好きや。…今日からは、『俺だけの』になって?」


「…………」





…本当に、忍足君ってば。


ロマンチスト、なんだから…。





「…はい。………私も忍足君、好き…だよ…?」


「知ってる」


「ええっ!?」


「言うたやろ?ずっと、見てたって」





恐る恐る振り返ると、忍足君は少しだけ頬を染めて、言った。










「やから、二人で一緒に歩いたんやで?……『すき』ってな」










…あれは忍足君だけじゃなくて、


私の告白でも、あったんだね。





私は忍足君の目をちゃんと見て、本当に嬉しくて笑った。


自分の事見てほしいって言ったのに、忍足君は私の笑顔を見て顔を背けちゃった。





…不意打ちは反則やで…」





耳まで真っ赤になった忍足君を見て私は思い切り笑ってしまった。


忍足君…ううん、次は『侑士』って、不意打ちで呼んであげるね。














































































































end.



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ヘイ!YO!←

妄想爆発してます、皐月です。

侑士と二人で雪を歩きたい……今年の2月に大阪は雪積もったんですが、そんときに思いついた告白方法。

ですが…もう10月ってね……。

完済人目指してラス1も今から書き上げます。波に乗らなきゃまた書けなくなりそうなんで;




ででで!東 璃奈様リクエストの忍足夢 『白銀のセカイに愛を刻んで』でした!!!

いかがだったでしょうか?あんな告白きゅんってしません?

でも多分侑士だから許されるかもですね。実際三次元でやられたら皐月は引いちゃいます☆^^←

なんかその年がどんな年になるかは正月で決まる!みたいなことわざありますよね?(なんかそれっぽいの…!←)

皐月は今年の正月別に何も無かったんで普通の年になるかなぁと思ってたんですが…

普通な年なわけないんですよ、厄年ですから。さらば十代^^

元旦に始まった二人はきっとずっと続いていくでしょう。




さぁ、ラストです!!本当に本当にほんっっとうにお待たせしました!!

まいていこーう!!←












2008年9月30日   拝