事の是非の基準など、
神が図るものでは無い――
<カミサマの真理>
血が滴り落ちる。
「……」
フェイタンは手に付着したそれを払い、暗い道を進んだ。
今日の仕事は一人だ。
『ある研究所で、面白いものが作られたそうだ。盗って来い』
クロロの言う面白いもの。
フェイタンも少しの興味があったのか、それを期待しつつ、研究員を始末して回った。
「……」
やがて、空中庭園のような庭に出た。
月灯りの元、中央の噴水だけが音として響く。
「…姿を現すね」
フェイタンは噴水の向こう側に向かって声をかけた。
明らかに、弱い研究員達とは違う空気を発している、誰かがいる。
「……」
「!」
噴水の向こうから出てきたのは、
「…侵入者、発見」
とても美しい少女。
「…お前も此処の研究員か」
クロロが言っていた、面白いもの…彼女がそうなら、殺すわけにはいかない。
フェイタンは距離を取りながら問う。
「……? 応答しろ、おい」
少女は耳に手を当て、言葉を紡いだ。
ワイヤレスの無線機からは、何の反応もない。
「応答しろ。誰か」
「…誰も答えないね」
フェイタンの言葉に、少女は振り向く。
「どういう事だ?」
美しい顔が怪訝に歪む。
「ワタシが始末したね。此処にはお前とワタシしかいないよ」
「!!」
少女は連絡を諦め、耳から無線機を取り、地面に投げ捨てる。
「……お前、ロードを…殺したのか」
「ロード?」
「“主”の意味だと教えられた。私の主だ。それ以外は殺されようがどうでもいい」
少女の瞳から光が消え、フェイタンを見据えた。
「白衣を着た、髭を生やした男だ。いつもタバコを吸っていた。……答えろ」
隠しきれていないオーラが、空気を伝ってくる。
「……最後に殺した奴ね」
「!!」
一瞬、フェイタンの視界から少女が消える。
「遅いね」
フェイタンはその場を跳んだ。
そのすぐ後には、拳を振り下ろした少女によって穴が開けられていた。
「!!」
その腕は、
「……お前が、団長が言てた面白いもの、か」
獣のように太く、茶色い毛並みをして、槍のような爪を生やしていた。
「…私はここで、ロードにより作られた」
拳を解き、その右腕を、普通の左手で包み込む。
「…恨みが無いと言えば嘘になる。研究材料にされ、以前の…人間だった時の記憶を消されたからな」
月灯りが、少女の顔を照らす。
「……それなら何故、泣いてるか」
確かに、その頬は濡れていた。
「…それでもロードは…私の主だった……」
――――――――――――……・・・
産まれた時にはすでに、たくさんの大人に囲まれていた。
『おぉ、目を覚ましたぞ』
『美しい毛並みだな』
『今までで一番の出来ではないですか?』
誕生というにはおかしいかもしれない。
“その時”の私はすでに成体だったのだから。
『誰だ……? ここは何処だ……!』
『はっ、一人前に威嚇などしているぞ』
『鎮静剤を投与します』
白衣を着た女が私の手を掴む。
『やめろ』
男の声が響き、辺りは静まり返った。
『混乱しているだけだ』
『しかしロード…!』
『いいから皆、もう休憩しろ。しばらく部屋に来るな』
ロード、と言われたその男を残し、全員が部屋を出た。
『……』
ロードと私の間には、鉄製のゲージ。
その時初めて、私が檻に入れられている事に気づいた。
『…私は誰なんだ? お前は誰だ?』
『私はロード。…主、という意味だ。神って意味でもあるがな』
『主…?』
『私はお前の主、ロードだ。お前を所持している、と言ったほうがいいか』
そう言って、ロードはタバコの煙を吐いた。
『…私は、何だ?』
『お前は半獣だ。ここで研究している、一番の出来の、な』
私は自分の右腕を見た。
茶色の毛並みをした、人のものではない腕。
『何故私がこんなものにされなくてはいけないっ!? 戻せ、私はっ……』
私は、何だった?
『私は……誰だったんだ…?』
縋るような目でロードを見る。
『さぁな。お前の記憶なんて、当の昔に消しちまったさ』
――――――――――――……・・・
「それをワタシに話してどうするか」
「どうもしない…ただ……」
ついには泣き声になる少女。
その場にひざを着き、ロードを思い出すように右腕を抱き締め続けた。
「あの人は私の神だった……私をこんな身体にしたのはロードだが、そんな私の存在価値を与えてくれたのも…ロードだった……っ」
ふいに視線を上げ、少女はフェイタンを睨んだ。
「ロードを失った今、私は何処に存在すればいいっ!? 何のために存在すればいいと言うんだ!!」
少女はフェイタンに駆け寄り、胸を叩いた。
少女に殺気がなかったからか、フェイタンは避けなかった。
「返せ! ロードを返せ!! …私にはあの人が必要だったんだ!!!」
「……」
フェイタンは少女の肩を掴む。
「お前、名前は?」
「名前なんかあるものかっ! ……あの人にだって、名前なんか無かった……ただ皆、『ロード』と…」
少女の手が震え出す。
「あの人は私と同じだ……。名を持たず、ただ、独りで……」
「お前の話など興味ないね」
「!」
フェイタンは震える少女の唇にキスをする。
「………っ」
「存在する理由が欲しいか? それが無いと生きれないか?」
「私は…弱いから……」
「…それなら着いて来るね」
フェイタンは少女の左腕を掴み、歩き出す。
「……そこで、私は存在していいのか……?」
「誰が『駄目』言ても、ワタシは許すね。お前はワタシの隣に存在すればいいよ」
「……」
少女は右腕を元に戻す。
「………お前の名は…?」
「フェイタン。 !」
少女は、後ろから思い切りフェイタンに抱きついた。
「フェイタン……フェイタン……っ」
「…お前、泣き虫ね…」
フェイタンは少女の涙を拭き取る。
「名前…」
「え……?」
「お前の名前、ワタシが決めてやるよ」
「本当か!?」
少女は顔を上げ、初めて笑顔を見せた。
「……」
「…?」
少女は問い返す。
「何処かの国の、笑顔の神の名ね。…には笑顔が似合うよ」
フェイタンは ふいっと視線を逸らす。
「…か! うん、いい名だ。…有難う、フェイタン」
その笑みは、本当に綺麗で、
フェイタンはクロロにどう渡すべきか考えていた。
自分のものにしたかった。
「フェイタンは、私の新しいロードだな」
「?」
「違うのか?」
フェイタンに、新たな想いが生まれ始めた。
だけど、それは“主”だの“所有物”だのという関係を望むものではない。
「…なら、最初で最後の命令ね」
「何だ?」
はワクワクした笑顔で問う。
「…一つは、ワタシを主だと思わない事。そして…」
もう一度、フェイタンはにキスをした。
「永遠に、ワタシの側で笑てる事ね」
は一瞬驚いた顔をすると、すぐに瞳を潤ませた。
「永遠に…側にいていいのか…?」
「いい言てるよ」
「…フェイタン……っ」
彼女が此処で産まれたのは何の定めだったのか。
彼女の命を弄んだ者達は、何を許されていたと言うのか。
事の是非の基準など、
神にだって解らない。
全ては人間の傲慢な我侭で決められる。
なら、こんな始まりでもいいのだろう。
納得した二人がいるのなら。
end.
■あとがき■
はい、意味わかんないo
名前最後しか出て来てないし!!
書いた後、確認の時に名前変換自分の名前でやったんですけど、
――何処かの国の笑顔の神の名前…
お前いつから神になった!!!!
ははん、笑っちゃいましたよチクショーo
つまりはあれですねo
情緒不安定o(ぇ