クリスマスなんて、嫌い。








目が痛くなるほどのイルミネーションも、


チラシを配るサンタのおじさんも、


街中に流れてるクリスマスソングも、








全部全部、大嫌い。
































































White Christmas Carol






























































「今年も荒れとるの……」


「毎年の事だろぃ」


「……煩いなぁ」






机に突っ伏してぶつくさと呟く私を、雅治とブン太が軽く笑った。






「三年前の話じゃろ。いい加減クリスマスに責任転換しなさんな」


「別に責任転換してないし。……あいつのせいで、嫌いになっちゃっただけ。

 私もクリスマスも被害者よ」


「お前も中々ハードな人生送ってるよなー」






三年前。


忘れもしない、中三のクリスマス。











私は、氷帝の忍足 侑士の………彼女、だった。






















「…侑士?」


「! ……」








侑士と初めて迎えるハズだった、クリスマスイヴ。


私はその前日に熱を出してしまい、侑士は大事をとってデートは明日にしようと言ってきた。


別に、私はイヴでもクリスマスでも、大好きな侑士と過ごせるならどっちでも良かった。


私の身体を心配してくれた侑士が嬉しかった。






……なのに。






「その人……誰?」


「あー……」







何で私が街にいるのか、とでも言いたげな侑士。


もう熱が下がってるのは、今朝のメールで知ってるくせに。


その人と会うために、私との約束、明日にしたんだ?






「あなたも、侑士の彼女?」


「!」


「残念ね。知らなかったの? ―――侑士に何人、彼女がいるか」


「え……」





「この女好きが一人に絞れるわけ無いじゃない」








こんな事になるなら、お使いなんか頼まれなきゃ良かった。


ケーキの箱を持っている手に感覚が無くなっていく。






「その…。……そういう事やから」






そういう事って、どういう事?






「ほな、…またな」






違うよ、侑士。



私たちにはもう、――また、なんて無い。


























「…ほんでその通り、急にお父さんの転勤が決まって、神奈川に引越し……それから忍足クンとは会っとらんって事か」


「そーよ」


「もういいじゃねぇか。新しい思い出いっぱい作れば!!」


「丸井の言う通り。つーわけで、イヴは俺と過ごさん?」


「あっ仁王ずりぃ!! っ、俺とホテルのスイーツバイキング行こうぜぃ!!」


「どっちも行かないよ…」





私はため息を着き、もう一度机に突っ伏して瞳を閉じた。





「クリスマスは、恋人たちのイベントなの。

 あんたたちは、友達でしょ」



「なら付き合えば良か?」


「俺ならいつでもの彼氏になるぜぃ?」




そんなお手ごろ感覚な彼氏はいらん!! この馬鹿どもが!!」





ほんとに話聞いてたんだろうか。


私はあいつの、お手ごろな彼女だったというのに。





「俺は他の女なんか作らんよ? 一筋じゃ」


「数週間で女の子とっかえひっかえする人が何を言いますか」


「付き合っとる間は一途じゃよ?」


「冷めるの早いっつーの」





「俺はのことずっと愛せるぜぃ?」


「よく言うよ。お菓子もらえればほいほい着いていくようなお子様が


「こっ、子どもじゃねぇよ!」


「あ、それ以外ツッコミ無し? そうだよねー。ショタのおじ様にアンタ、何回連れ去られそうになったっけ?






何気にショックを受けているブン太を横目に、今度こそ一眠りするために瞳を閉じて…







―――キーンコーンカーンコーン……






「げ」


、チャイムじゃ。次はお前さんの苦手な数学じゃけぇ、ちゃんと起きとるんじゃよ?」


「ほんじゃな〜」





席に戻る二人を恨めしい視線で見つめる私。


沸々とした気持ちを冷ますことなく、数学の先生によって授業は開始された。
























































































「寒……」





教室の中とはいえ、放課後はとても寒い。


震える手で日直日誌を書くが、こういう時に限って何を書けばいいか解らないもので。






「………」





寒いときほど、三年前のあの日を思い出す。


あの時も、こんな思いをした。


身体だけじゃない…心まで凍っていくような感覚を。






あの日、家に帰ってから、私はまた熱を出した。


それは一週間続いて。


その間に、学校は冬休みに入っていた。




冬休みの間は、ずっと侑士からの電話やメールは着拒否して、


そして、新学期が始まる前に、私は神奈川に越してきた。


ホントはお母さんが、卒業まで氷帝にいて立海を受験すればいいと言ってくれたけど、


侑士の顔を見たくなかった私は、そのまま立海に転入し、高等部へ受験した。


携帯も、新しいのに買い換えた。







「……あいつらに会ったのは…入学式?」






桜が綺麗だったのを、今でも覚えてる。


まだ友達も少なくて、周りの空気にも溶け込めなかった私。


そんな中、いつも一緒に居たグループの女の子たちが、ある集団を見て歓声をあげた。






「きゃーっ!! テニス部!! テニス部がいるーっ!!」


「ブン太くーんっカッコいいー!!!」


「柳生くん眼鏡取ってぇー!!」


「ヤバイ仁王セクシー度上がってない!!??」







無駄に美形が多い集団。


いろんな方向からかけられている声に全く反応しないところを見ると、こういうのには慣れてるんだろう。


…どこの学校も、テニス部って美形ぞろいなわけ?







「いーな、! 氷帝でもテニス部見て、立海でも見れるなんてっ!!」


「あんまし興味ないんだけどなぁー…」


「うわっ、勿体無い事言ってるよこの子!!」


「いい!? 立海はワイルド、氷帝はクール! あ、これはあたしの見解だけど。

 代表的なのといえばそうね…立海は仁王! 氷帝は…―――忍足君とか!!」


「!」






侑士は…こんなトコにまで、名前、知られてるんだね。


そりゃ、モテるわけだ。






「…そーなんだ? あ、私、なんかサボりたくなっちゃったや………行くねっ」


「えっ!? ちょっとー!?」







大声で呼んでくる友達の声も気にせず、私は来た道を走り去った。


その背中に、あいつらの視線があったことも知らずに。







「高等部の保健室って、中等部と同じなんだ…」





初めてのサボリに選んだのは、保健室。


私はためらうことなく部屋に入る。





「すいませーん、頭痛いんですけど、休んでていいですか?」


「あら、さんじゃない。ええ、そこに名前書いて、奥のベッド使っていいわよ」


「はーい」




立海に転入してから、色々とお世話になっているのが保健の先生だった。


もしかしたら、これがサボリだともばれてるかもしれない。





そうして、しばらく寝転がっていると、





「あー、ダリぃ……」


「先生、ベッド借りても良か?」





室内に、新しい声が聞こえた。




「まーたアンタたちサボりに来たの? 懲りないわねぇ」



「だって入学式とか、ほとんどメンバー変わんねぇのに面白くねぇじゃん」



「そんなことばっかり言って……。

 あぁ、ベッドなら使っても構わないけど、奥のベッドは一人使ってるからね。

 どうせアンタたち寝やしないんだから、二人で一つ使って」



「何でこんな奴と……」


「誰が使っとるん? 男? 女?」


「女の子よ。邪魔しちゃ駄目よ、体調悪いんだから」






ごめん、先生。


私も、その人たちと同じでサボリなんです。




「ふーん…」


「あ、私ちょっと出るから。悪さしちゃ駄目だからね!」






え、ちょっと待ってよ先生!?





「あーあ。何でお前と一緒なわけ?」


「俺だって、どうせなら女と寝るほうが良か。……隣、誰が使っとるんかの」


「あっ、邪魔すんなよ! 可愛そうだろ!!」


「とか言って丸井……お前さんも気になるんじゃなか?」


「う……」






カーテン一枚向こうで、ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人組。


嫌な予感がしつつも、私は寝たフリを決め込んだ。




途端、


シャッ、という音が聞こえた。





「……見んしゃい。…ビンゴじゃ」


「マジかよ!」





何、何がビンゴ?


私ですか?





「さっき走ってったヤツだよな?」


「ククッ……べっぴんさんじゃの」






そう言って、誰かが私の頬にすっと手を這わせてきた。


私はすばやく身を起こすと、その手を振り払う。





「やっぱり起きとったか」


「……誰?」






エロそうな銀髪と、ガキっぽい赤髪。


確か……さっきの集団に、いた気がする。





「! お前、俺らのこと知らねぇの!?」


「…今年の1月に転入したから……」


「道理で。俺もお前さんの事知らんかった」


「へぇ、珍しいな。仁王がこんな可愛いヤツ知らねぇなんて」


「年明けは何かと忙しかったからの」






私を放置で話し続ける二人。


仁王……そうか、この人が、さっき友達が言っていた…




私には、関係ない。


そう思って、もう一度ベッドにもぐりこもうとした瞬間。






「お前さんもサボリじゃろ? さっき大声で叫んどった」


「バレてるし」


「だったら俺らと話さねぇ?」


「めんどい」


「まぁそう言いなさんな。…俺は仁王 雅治」


「俺、丸井ブン太! シクヨロ☆」


「…で、お前さんは?」






「………」














それから、私たちはたくさんの話をして、いつの間にか、とても仲良くなっていた。


今では、元いたグループよりも一緒にいる。


……そのせいで、彼女たちは離れていったけど。




二人のほうが、よっぽど、友達と言える。







「…帰ろ」





何とか書き終えた日誌を教卓に仕舞い、私は学校を後にした。




















































































































12月、24日。






今日は、最も憎らしい日。


……クリスマス、イヴ。






「ダルい……」





今日は土曜日で、学校は無い。


誰との約束もしてないから、暇といえば暇なんだけど。


外に出る気は、全く無い。


この日は、きっと嫌なことしか起こらないから。






………なのに。






ー? ちょっとお使い「絶対やだ」


「まだ3年前のこと気にしてるの? ぐだぐだぐだぐだ言ってないでさっさと逝きなさい」


「逝ってきます」





最強マザー。


この日ほど貴女を恨めしく思った日はありません。





「いい? 今回は、明日食べるケーキを予約しに行くだけでいいから。ついでに遊んでらっしゃい」


「予約だけして帰ってくる」


「夜10時までに帰ってきたらアンタはケーキ無し」


「……逝ってきます……」





お金をもらい、とぼとぼとした足取りで街に向かう。


嫌だ。もうこの時点で引き返したい。


誰にも会いたくない。


お母さんのいぢわる。これで娘が精神崩壊起こしたらどうするつもりだ。






「はぁ………」





次第に、駅前広場が近くなってきて、ざわざわと音が聞こえてきた。


ケーキ屋さんは、広場を突っ切り、恋人たちやサンタでひしめき合う街道の中にある。


必然的に、私は最も嫌いな街道に入らなきゃいけないわけで。






「仕方ない……ぱぱっと行って、どっか喫茶店かゲーセンで時間つぶそう…」





私は覚悟を決めて、街道へ足を進めた。






「どーぞー」





いきなり目の前に出されたチラシを、いらないのに反射的に取ってしまった。


せっかくだし、周りのカップルが見えないように目線の高さまで上げて読むことにした私。











その時だった。



















「!」















ああ……神様、




私は、こんな偶然は、望んじゃいなかった、です。














































































Whom did you meet?